芝生の雑学 東京40まいる

芝生の手入れに役立つ雑学専門ブログ

JリーグAC長野パルセイロを支える長野Uスタピッチ管理の極意〜 ヘッドグラウンドキーパー青木茂さんに聞く

AC長野パルセイロサポーターの皆さんへ

芝生の雑学 東京40まいると申します。サッカーJリーグは「生きた芝」「常緑」が条件のピッチで戦う競技です。

各スタジアムに芝の命を操るキーパーがいて、植物である芝の命のチカラを引き出すコントロールをしています。ホーム・アウェイのピッチ。各スタジアムの事情で限られた環境・日程、予算の過酷条件の中で、グラウンズマンたちは通常では考えられないような最大限の芝生回復に努め、試合を迎えます。これも含めてJリーグ

ちょうどWRC世界ラリー選手権のサービスメカニックが、タイヤがモゲてボロボロになって到着したラリーカーを、たった40分の制限時間内に修理して送り出すのと似ています。

サッカーチーム選手がドライバー、コ・ドライバー(実際に走る人)なら、グラウンドキーパーはサービスメカニック。いつだって「完璧」とはいかないけど、最大限の回復をさせてその時のベストを尽くして送り出す。これの連続です。

今回は長野Uスタジアムのピッチ管理のヘッドグラウンドキーパー青木茂さんにUスタピッチ管理の極意を教えていただきました。

知らなくても観戦はドラマチックだけど、ピッチ管理を知ったら感動はもっと深く味わえる

それが「雑学のチカラ」です😊
日本に一つしかない誇り高きUスタピッチ管理の「心」をみんなに知ってもらいたい!まずはこの動画をご覧になってからお読みください。
[https://youtu.be/eqLsbj7l4dM?si=vGDHEVr9pTdheJat:title=]

スタジアムのピッチ管理の前提条件はスタジアム毎にまるで違う

これまで様々なスタジアムをめぐり、スタジアム運営には「興行(使い方)」の事情、「環境(気候と施設構造)」、「設備」「予算」など、それぞれに(まったく)異なる前提条件(植物生理・社会・経済)があることを知りました。

スタジアムのグラウンドキーパーは、その地の限られた前提条件の中で、芝の命を操りプレイングqualityとターフqualityの最大値(瞬発・持続の両面から)を引き出す技術者。まさに魔法使いのような存在です。
そして、ターフ管理の「手段」にも実に様々な選択肢があることをこれまでに学んできました。

AC長野パルセイロ 長野Uスタジアム(南長野総合運動公園球技場)のピッチ管理の特徴

南長野運動公園内にある球技専用スタジアム、長野Uスタジアム(通称Uスタ)では、「芝を健康に」「強く」育てることを中心に据えた生育管理を実践。
選んだ芝種は、生育条件が整った(揃った)時に得られる美しさの最高値が最も高いブルーグラス
これがヘッドグラウンドキーパー青木茂さんのピッチ管理の基本方針です。

Uスタのあの眩しい緑は健康なブルーグラスの色そのものなんです。管理の難度は高く、ブルーグラスだけでプレークオリティーを維持しているスタジアムは極めて稀です。高度な管理技術を持つキーパーしか扱えない最高に美しい緑の芝種。Jリーグ東北地方のグラウンドキーパーさんたちも、青木さんの管理技術を参考に学んだりしています。

芝生の雑学東京40まいるチャンネルメンバーシップのみなさんには、青木茂さん自身が語るピッチ管理解説の未編集版を共有。一般公開版は、冒頭の動画をご覧ください😊

水の動き、太陽の光、空気の動きが健康な芝をつくる

ここは球技専用のスタジアム。興行(利用)の観点で、選手のプレークオリティーやターフクオリティーといった芝生の質的側面、観客席からみた視覚的美しさも理想を追究できる可能性が比較的高い運営のようです。
青木さんは、Uスタの設計段階から主導的に携わり、芝の生育環境を考慮した施設・設備が備わっている点が、このスタジアムの特徴です。

太陽の光(日照時間の確保)

長野Uスタジアムの「U」の由来は、南側スタンドは2階席が無く、屋根が南側だけ低いため、スタジアムの屋根全体が「Uの字」状に見えるからだそうです。

南側をスタジアムとしては極限まで低くして日照が芝に当たる時間を長く取るようにしている。
残念ながらオーロラビジョンだけは、どうしても南に設置になってしまった・・・と残念そうに話す青木さん。

ちなみに、多くのスタジアムは360度高い位置に屋根があり、日中の日照時間は30%台くらい・・・なんてスタジアムも多々あります。(画像はよくある360度屋根の典型例・参考イメージ)

僕は我が家の芝生は「日陰だから逆境」なんて言い訳してましたが、スタジアムピッチ見学をするようになって、この考えを改めました。
芝の命を操る技術と経験、優れた勘を磨けば、日照条件が悪くてもプレイに耐えるスポーツターフはつくれる。
グラウンドキーパーさんたちは、まさに芝生のお医者さん。主治医なんです。
逆境を克服する技術を知るたび、僕は胸ときめき、「もっと多くのサポーターのみなさんにグラウンドキーパーさんの努力と成果を知ってもらいたい!」と思います。

長野UスタジアムのUの字は、日照を取り込み、太陽の光を芝生に当てる時間を長く取るための南側が低い「U」です。

陽が当たらない南側スタンド前ゴール裏エリアの管理

「はじめは芝を諦めて剥がしたこともある」と青木さんが語る南側スタンド前エリア。ここは流石に一日中、陽が当たらない。

補光機の活用と糖の投入の緻密な管理で芝生化に成功。僕が見学したときには全面、美しいブルーグラスになってました。

サポーターが観ていない時、それぞれのグラウンドキーパーさんはこんな風に様々な手を尽くして芝の命をコントロールしています。その時、その時の条件下で最高の値に引き出す努力を捧げ、ピッチを維持管理してるんです😍

芝生での糖のコントロールって、僕は先日の芝草学会秋田県芝生地見学会のときに初めて知りました。

青木さんのお話によれば、日照が足りず、地下茎を張るためのエネルギー余力が足りない時、糖資材をコントロールして支援してあげるんだそうです。
「そんな手段があったのか!」と、胸ときめきました。芝生の管理って奥が深くて面白い😊
こういうお話を聞けるのが、僕の活動の原動力です。

水で床土の中の空気を入れ替える 土壌の呼吸コントロール

★ 散水は「一気に大流量」を全面に。そうすることで散水後の水の垂直移動が綺麗に行われて古いガスが抜けて新鮮な空気が根に届く。
★水はすべての栄養吸収の媒介。床土の中から動いて移動して芝が体内に取り込み、養分・エネルギーを媒介移動させる重要な役割。
★管理を誤れば病害の原因にもなる
★ダラダラと多頻度で散水するのではなく、メリハリをつけて大量散水することで根が水を追いかけて強く深く張る。
これが、青木さんがおっしゃっていたことです。
もちろん地下30cmまで川砂が入っている床土での管理であることが前提です。
(補足: 床土が土ベースのお庭などでは、もっと少量長時間で染み込ませる必要アリかと)

スタジアムには54基のスプリンクラーが埋まっていて、
そのうち28基でピッチ内を一斉に散水できるそうです。(画像の状態)
この一斉散水の画像はとても珍しいシーンで、一般的なスプリンクラーは、何ブロックかに分けてリレー式でパイプ経路を切替えて順番に水圧をかけて散水していく方式が多いです。
「一斉・同時散水」に拘っているのが、青木さんが手掛けるUスタ式。こういうところもAC長野パルセイロサポーターの皆さん、知っておくと「通」ですよ😊

寒地型なので地温が低い時に散水するためにも、一気大量、全面散水のこのシステムが重要な役割を担っているとのこと。
ドーンと水をあげて、さーっと下に落ちていくことで
土壌空気の入れ替えになるし、根が空気を吸って水を追いかけて強くなる。ここではそういう水の操り方を実践しているそうです。

(この日は、佐野綾さん率いる関係業者さん達による年に一度の散水システムの点検日。僕は綾さんにお願いしてこのタイミングについてきて青木さんへの取材実現😊というワケ。綾さん、ありがと!)

地ギワに新鮮な空気の流れをつくる仕掛け

スタジアムの南北には芝の面をカバーする低い位置のルーパーというシャッターのようなものが一列に配備しています。

この銀色のルーパーは、90度全開に開く構造になっていて、スタジアムの外から入ってくる空気の流れを妨げず、そのままピッチの芝生面を流れていきます。
空気の動きを止めないために、スタジアムの外の塀もメッシュになっているという徹底ぶり。

芝の根は酸素呼吸で糖をエネルギーに換えることで様々な生理代謝をしていますし、根から養水分を吸い上げるのにも、葉の気孔からの蒸散が体内ポンプ(負圧発生)の役割を担っています。
だから、芝の地面の空気を適切に動かすことは、家庭園芸芝生でも重要です。いわば芝の健康直結の要素の一つ。

一般的なスタジアムでは送風機などで空気を強制的に動かすところもありますけど、ここには送風機はありません。
地域の気候の自然のチカラを活かした健康で強い芝生づくり!それが、青木さんが手掛ける長野Uスタジアムのピッチ管理なのです。
以上が、ピッチの芝を健康に育てるための施設と運営の工夫。青木さん流のピッチづくりです。
設計段階から主導的に携わり、芝の植物生理を尊重した施設づくり。この理解が運営全体で得られていることも、青木さんの地域コミュニティづくりの賜物なんだと思います。
「芝生は人の関わり」 それを強力に実践している人です。

芝刈り機の刃の切れ味にこだわる 常に本研磨で刀のような刃を維持する

芝刈りは芝にダメージを与える工程でもあります。刈り取る切り口は、鋭利な刃物であるほど、芝の負荷は少なく回復も早い。
刃物管理にも芝への優しさが注がれています。
ここのスタジアムのリール式芝刈り機の刃は、バーンハード(BERNHARD) という専用の研磨機で精巧に研ぎ澄まされます。

この、刀のような斜めの研磨が2番どり。刀の刃と同じですね。ラッピング研磨では研げない部分です。このように手作業で熟練の人が研いでいきます。

そして一番どり。ラッピングで削るのと同じ部分ですが、この機械ではリールの円筒形の真円補正も自動で行います。

さらにはこのリール刃が接触するベッドナイフも精度を出して研磨します。

芝生の雑学 東京40まいる YouTubeチャンネルメンバーシップのみなさんには、この刃研ぎシーンの取材動画を未編集で丸ごと共有しています。
滅多に見れない貴重なシーンですので、ぜひ、ご覧ください。

高精度な切れ味の持続がもたらすもの

  • まず、円筒のリール刃が精度高く接触するので切れ味は抜群。芝へのストレス負荷を最小限に鋭く刈り込みます。
  • 歪みがないので機械本体の負荷も少なくロングライフ化にも貢献。
  • さらに、ラッピングコンパウンド研磨に比べて、切れ味が長持ちするので、研磨作業にかかる時間を節減し、事業の推進に人的配分を割り当てられる。
  • BERNHARDは非常に高価な機械(今だと価格高騰につき1000万円前後か?と。)だけど、この投資から生まれる副次的効果も含めて考慮すると、ここでの使用では充分に採算があうそうです。

スタジアムでこの研磨機を導入しているのは日本でココだそうです。

気候変化への対応の研究・実証も積極推進

寒地型芝のブルーグラスは、夏の暑さに弱い。長野でも温暖化は進み、最近では夜温が落ちないことも多くなってきたそうです。
その影響か、真夏が過ぎた後、エネルギー切れなどに起因する地下茎の発達不足などから、芝の疲れ・秋落ち症状の傾向が年々、次第に強くなってきているのを感じるそうです。僕が見学したのは11月。もうすっかり回復してましたけどね😍

青木さんがタホマ31に注目しているのは、近い将来の長野の気温上昇への対応
今、世界中で注目され、日本でも芝生専門家やマニアの間では関心事となっている新品種の改良スポーツターフ、タホマ31。

青木茂さんは、全国各地で導入されるタホマ31には、必ずといっていいほど主導者またはアドバイザーとして関わっています。

年々気温上昇が続く長野で、いつかはブルーグラス(寒地型芝)の常緑管理を諦めるときがくるかもしれない

そんな思いで、今度は「冬の寒さに強い暖地型芝」による単一品種常緑実現の可能性として、新品種タホマ31の実力に深く関心を持ち、自らが実践者として実地実証を進めているそうです。
芝は生き物。カタログデータではわからないこともある。日本の土地で実際に育てて初めて活かせる知見が得られる。
すべては、長野Uスタジアムの常緑で美しいピッチのため。

ヘッドグラウンドキーパー青木さんは、長野Uスタジアムの未来に向け、今も思考をめぐらせて謙虚に学びベストを尽くしています。

長野Uスタジアムは、奇跡的に好条件が整ったハイクオリティターフのピッチ

芝の生育を重視した最適なスタジアム設備。
設計段階から主導的に携わった、一流グラウンドキーパー青木茂さんをヘッドに、この地域での芝生地管理を知り尽くした長野市開発公社所属のグラウンド管理技術者たち。熟練の機械管理技術者。

そして世界的に珍しいという極めて美しいブルーグラスでの常緑管理。

ここをホームとする長野パルセイロの選手、サポーター・ファンの皆さんは幸せですね😊

ぜひ、みんなが見ていない時に情熱注いで活躍しているグラウンドキーパーのみなさんにも熱いエールを送ってください。

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