芝生の雑学 東京40まいる

芝生の手入れに役立つ雑学専門ブログ

芝生の殺菌剤 秋の防除と殺菌剤の選び方、ステップ別の学び方

芝と病原体の関係を知ろう

「芝生の病害」というと、ある日突然侵略者がやってきて芝を攻撃し始めるイメージをしがち。しかし実際は、病原体はそこら中に無数にいます。野生の芝はこれに対応して防御できる強靭な植物生理の仕組みを持っています

野生化実験の芝 水とわずかな肥料以外、何もあげていません

「殺菌剤」と「芝刈り」は、いわば「アメ」と「ムチ」

芝を、病原体に侵されやすい弱い生命体にしているのは「芝刈りという試練」です。「芝生」は、芝の強靭な生命力を活かして、人間が芝を刈り込むことによってつくる「不自然体」です。

頻繁な刈込により生命の危機に晒され、必死に地際に葉を増やす芝生

短く刈り込んだ美しい緑の絨毯を維持するためには、芝が「本来が持っていた生命力」の喪失分を「人間が補う」必要が生じます。根の通気透水性を保つ耕種作業や、刈り取って捨てた葉の成分を補う施肥・資材補給、そして、殺菌は、短く刈られた芝が生きていくために、人間が補うものです。

芝が病原菌に侵される条件「3要因」

芝生に病原体が居るだけでは、芝は病気になりません。過去の寄稿で、芝が病気になる仕組み・状態を、専門知識を持たない人向けにわかりやすく解説しました。これをお読みいただくと「殺菌剤の役割」がお分かりいただけると思います。

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我が家の現在の殺菌剤ラインナップと、それぞれの役割・利用時期

殺菌剤は、そのお庭の環境(病害の発生傾向)に合わせて、個別に最適化を図るもの。その一例として、我が家の芝生で使っている現在の芝生用殺菌剤のラインナップをご紹介します。それぞれに狙いと役割、使用する時期があります。

防御系の殺菌剤

葉の表面を鎧のように囲って、菌糸が芝に侵入するのを防ぐ薬です。
芝に付着する病原体細胞のいろんなところを攻撃するので、特定の性質を持った耐性菌が増えにくい。だから年間を通じて使用限度回数まで何度も使用できる防御剤です。

人間にたとえるとマスクを着用したり、アルコール除菌をするようなもの。

「感染させない」ために使う薬です。ただし、感染(発症)した後に使うと、ほとんど効果がないのでお間違えなく。

★ カシマン液剤

このカシマン液剤は、プロの芝草管理従事者がよく使う防御剤です。我が家では2020年からラインナップに加えています。一時的に気候条件などが良くないときに、予防で使用します。茎葉の表面に付着させることが大切なので、噴霧器をつかって少ない水量(葉から雫がおちないように)で散布するのがコツです。

★ オーソサイド

ホームセンターなどで手軽に入手できるオーソサイドも「感染させない」ために使う鎧としてはオススメです。きゅうりや、なすなど、食材となる野菜に収穫の数日前まで使用しても、人間への安全性が証明されている、定番の農薬です。

カシマンと同じく、噴霧器で少量を散布して茎葉の表面に均一に付着させます。

春の重症病害の感染防止の殺菌は秋に討つ。病原体を攻撃するタイプの殺菌剤

芝を襲う病原体には、さび病やいもち病のように、空中から胞子が飛んできて、たった1つの胞子でも芝の体内に侵入できるタイプと、

ラージパッチや春はげ症、ゾイシアデクラインのように、菌一つ一つの侵略力は弱くて、地ギワ付近で大量に増殖してから一気に芝に侵略をしかけ、深刻な被害をもたらすタイプがあります。

人間に喩えるなら前者が軽微な「鼻風邪」で、後者は深刻な「肺炎」みたいなものです。

我が家の芝生で最も警戒するのは後者のタイプ。この家に引っ越してきて、最初に迎えた2018年シーズンは、これらの菌にやられて惨憺たる状態でした。(これが我が家の芝生のスタート)

春はげ症とラージパッチの併発で壊滅的だった我が家の芝生

これらの菌たちは一度その土地に持ち込むと土着する性質があります。

大病害を発生させたなら、そこにはいつもその病原菌が居るという前提で防除のプログラムを組み立てます。

もちろん、日頃から芝自体が健康体で強くなるように、芝の根が良好に呼吸できて、かつ、必要な水がある状態に管理しつづけます。(素因・誘因の改善)

芝生の漢方農薬アルムグリーンの定期散布もその一環です。

それでも、主因である病原菌は必ず居て、条件が整うのを土の浅いところや残渣の中で静かに待っている。だから殺菌剤の手助け(菌の数を増やさないよう制御)が必要になるのです。

来春のための秋の防除に有効な殺菌剤

★ クルセイダーフロアブル

病原体の細胞膜生成を阻害して菌が細胞分裂できなくする薬です。(所謂DMI剤)

リゾクトニアをはじめとする、凶悪多勢力で芝を攻撃する病原体の「数を減らす」ことで、芝に侵略できないように抑えます。

芝生用殺菌剤 クルセイダーフロアブル 500ml

地中から葉に向けての水の通り道を使って芝の体内に浸透する求頂浸透型なので、すでに発症している場合を除き、地際に多水量で撒くじょうろ散布が最適です。

★ オブテインフロアブル

クルセイダーの効果を、より高めるためのローテーションとして、今年新たに追加した薬です。クルセイダーと同じく、日本芝の重大病害の予防に役立ちます。

病原菌は、芝が光合成でつくった炭水化物(糖)を、芝の体内に入って横取りして「呼吸することで」エネルギーとして活かすことで増殖します。

これは、人間も同じですね。稲が光合成でつくった炭水化物である「お米」を食べ、呼吸することで、エネルギーに変換して生命活動をしているワケです。

オブテインは、この呼吸機能の一部(電子の移動)を阻害することで、病原体によるエネルギー変換を止め、いわば電池切れのように菌を殺す薬です。(所謂SDHI剤)

オブテインフロアブル 500ml

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オブテインは「高温時の使用で薬害が出にくい」という特徴があり、今年の9月初旬に使うにはちょうど良い・・・というのも、今回の選択の理由です。

オブテイン(SDHI剤)と、クルセイダー(DMI剤)の組み合わせ

攻撃するポイント・作用の異なる殺菌剤をローテーションに組み込むことで、耐性菌の増殖リスクを低減することができます。

我が家の今年の秋の病原体防除は、9月初旬にオブテイン、10月初旬にクルセイダーを散布する方針です。

ネットで調達するときは、最終有効年月に注意!

クルセイダーとオブテインは、ゴルフ場やスタジアムなどスポーツターフ管理用の殺菌剤なので、家庭向けパッケージがありません。製造・販売元は、本数をまとめて箱でしか出荷しませんので、1本単位で購入できるネットショップは「流通在庫」ということになります。

殺菌剤には「最終有効年月」というのがあって、これを過ぎると使用できません。

格安で販売されているものの中には、期限間際の寿命が短いものも含まれますので、調達する際は、お気をつけください。

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春先の防除に使っている病害スペクトラムが広い殺菌剤

芝がよちよち歩きの春先、生理代謝が本格稼働していない季節は、さまざまな病害リスクにさらされます。そんなときに便利なのが、適応病害の範囲が広い殺菌剤です。

ただし、適応範囲が広い殺菌剤は、他の有用菌も含めダメージが大きかったり、薬剤耐性菌数を増やしやすい傾向がありますので、必要最小限の回数で適切な時期に活用することをおすすめします。

★ トップグラス

菌が細胞分裂するときに、まず、最初のプロセスで染色体がそれぞれ2倍に増え、これらが2つの塊となって別れるプロセスがあるのですが、トップグラスは、この別れる動きを阻害して、細胞分裂できないように邪魔します。(所謂βチューブリン重合阻害剤) 耐性菌リスクが高い薬剤なので、連用は避けピンポイントで使う薬剤です。

依存せず、ローテーションに加えておくと、有効に役割を果たしてくれます。

梅雨の季節に活躍する複合殺菌剤

長雨の季節等は、ざまざまな菌の活動が活発となり、芝が襲われるリスクが高まります。このような時期には「攻め」と「防御」両方のチカラを高めておくことが効果的です。前述のカシマン液剤、オーソサイドなど、予防タイプの殺菌剤を併用することも有効な手段。

★ ユニゾン水和剤

病原体の殺菌のみならず、コケの繁殖も抑える効果のある薬です。オブテインと同じく、菌の呼吸を阻害する作用(SDHI剤)と、芝の茎葉の表面を防御する作用(多作用点接触活性化合物)の2つの機能を併せもった、比較的新しい農薬登録の薬です。

使用のコツは、短期・複数回。梅雨入り前と、梅雨入り初期に散布するとより効果を高く発揮してくれます。

他の薬剤と違って特徴的なのが、希釈倍率は167倍だということ。(他の薬剤は600~1000倍がスタンダード)。どれだけの薬剤量を使うのか、この動画をご覧ください。

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同じく、2つの作用機構を持ったグラステン水和剤

グラステン水和剤は、オブテインと同じ呼吸阻害と、細胞の構造自体を阻害する作用の2つを持った薬です。

我が家では、今回、オブテイン(SDHI剤)を調達したので、同じ作用機構を持つ、グラステンは、ローテーションからは外します。

この薬剤は、一般的な家庭の方が初めて扱うには、少々難しいです。

微細な粉末であるため、粉末丸ごと水溶性フィルムに包まれた状態でパッケージされています。ゴルフ場等の大量使用の場合は、このパッケージをあけて水溶性フィルムごとタンクにドボン!・・・で良いのです。

しかし、家庭での使用となると、1回あたりの使用量が少ないので、この水溶性フィルムを破って、少量ずつ軽量スプーンなどで取り出して希釈することになります。

この微細な粉末を安全に扱うのが、ちょっと難しい。僕が実際に家庭で使用した経験から、他の人にはあまりオススメできない薬剤です。

良い薬ではあるのですが、家庭園芸芝生ならではの悩みですね。

芝生と病原菌のことを学ぶ方法

病原体って目に見えないから、苦手な人が多いですよね。僕が芝草学会に入り、芝草管理技術者資格を取得したメインの目的は、病害に詳しい人になること。

一から学んだ僕自身の経験から、みなさんに「学びのステップ」を共有したいと思います。

【1】本を読もう!

難しい本である必要はありません。通勤電車ですぐ読み終えてしまう程度の本。病原菌とはいったい何なのか?世界観を知りましょう。きっと「思い込み」の病原体象とは随分違う視座が備わると思いますよ。

まず最初に読む、植物と病気の物語については、『植物たちの戦争』がオススメです。

小さな、小さな病原菌が、人間を大陸移動させてしまうくらいのチカラをもっていたり、植物と病原体の駆け引きや、植物が持つ防衛システムのことなどが、よーくわかります。

きっと、「謎の病原体」というアレルギーはこの本で消えると思います。みんな一生懸命生きている!

【2】芝生が病害になるメカニズムを正しく理解しよう!

手前味噌ですが、小生が寄稿したこの記事は、きっと家庭で芝生をたのしむ多くの愛好家の皆さんに役立つと思います。ダマされたと思って読んでみてね(笑)

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他にも、芝生に関する記事を書いてます。よかったら見てね!

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【3】専門家から直接学ぼう!憶測や噂で考えない。それが一番

元、バイエルクロップサイエンス社は、現在は、エンバイロサイエンスジャパン社(envu)となっております。ここの研究者、三好さんがenvuアカデミーと称して解説動画を多数公開してくれていますよ。

ちょっと専門的なお話も含まれますけど、正確な情報をつかみたい人は、この動画がイチバン! 僕が「なんでみんな三好さんの動画見ないんだろう??あれが答えじゃん!!」と云うと、三好さんは苦笑いしてました。

youtu.be

この動画は数少ない「専門家が直接情報発信する動画」。どうか、この動画の存在を広めてください!

三好さんのように、一般向けに情報発信する専門家が増えてくれたらいいな・・・と僕は思います。

そのためには、僕たち情報の利用者が「出典を明らかにする」こと。このルールが守れれば、もっと発信してくれる人が増えると思います。

情報だけ流用されると、専門家の方々は情報を出しにくくなります。

安易な受け売りの横行は、情報価値を薄めると共に、オリジネータによる価値ある情報の発信を阻害してしまう。

信頼で繋がる良い情報流通社会であってほしいものです。

【4】自分を磨こう 芝草管理技術者2級受験のススメ

芝生の病害や、薬剤のことを心底正しく理解するためには、芝の植物生理にとどまらず、土のこと、水のこと、生命のことから、法律や歴史、社会経済まで、広範な知識が必要です。

一番の近道は、芝草管理技術者の資格を取得すること。それも2級を目指すことが大切です。

www.shibakusa-rd.or.jp

芝草管理技術者2級では、一般書籍ではナカナカ学べない、芝・菌・虫などの細胞分子生物学から、芝生管理にかかわる法律の歴史と目的、ゴルフ場やスタジアムなどのスポーツターフ管理の最新事情、芝草管理の人事労務管理まで、広範囲のことを学びます。

そのすべての科目において、その道の超一流の講師陣から直接学べるのが、この資格研修最高の特長です。

僕の経験としては「これを知らずして芝生を語っていたか。。。」と、過去(2020年頃)「本を読んで知っている気」になっていた自分を恥ずかしく思いました。

芝生のことを真剣に学びたいと思っているすべての人にとって、答えはココにある。

断言できます。

僕のYouTubeチャンネルでは、我が家の芝生管理や様々な芝生活動を通じて、芝生にまつわる「雑学」を毎日配信しています。

芝生に興味がある方、情報源のひとつとして、チャンネル登録をお願いします。

www.youtube.com

次の動画か、ブログでお会いしましょう。

では、また!