芝生のサッチ取りについては、ちょっとした基本を知らないと、思いがけないトラブルで芝を弱らせてしまうことがあります。
このブログでは、「サッチ取りの注意点」「実践方法」のほか、そもそも「サッチとは何なのか?」「芝刈りカスとサッチは別モノです!」という意外な事実について、根拠を示しながらご説明します。
まずはこの動画を先にご覧いただくと話がはやい(^^)
芝が全力で活動している真夏は一度に取りすぎない
サッチは、役割を終えた芝の根・茎・匍匐茎の死骸なので、芝が生きて活動している限り必ず溜まりつづけます。いざ、サッチ取りを始めると、ついつい「サッチを全部とる!」という意識になりがちですが、一度に一気に取るよりは、日ごろから「サッチを溜めすぎない」ように意識して、少しずつ管理していくほうが安全だと思います。
サッチをとる目的は、あくまで「芝」のため。地表の通気・通水環境を良好に保つための作業。芝を傷めて本末転倒にならないように、気を付けましょう。
地表が良好な状態を長く保つのがサッチ取り作業の目的です。
芝の根が浅いところはやらない
サッチは、芝が生育旺盛だからこそ溜まるもの。そもそも育ちが悪いところにはサッチもあまり溜まりません。
根付きが悪いところをサッチ取りすると、不用意に根を傷めるだけなのでやめましょう。これは、あくまで緑の芝の話です。念のため。
チカラを入れ過ぎない
特に専用道具を使う人は、力をかけてゴリゴリやる必要はありません。 人間は正確に動作すればいいだけ。あとは道具がやってくれます。ゴルフクラブと一緒です。
サッチは、役割を終えた芝の根・茎・匍匐茎の死骸が、生きた芝の根本に絡みついたもの。サッチ取りというのは、この生きた芝に複雑に絡みついた芝の死骸をを、解して剥がしとる作業です。チカラでブチ切って取るものではありません。
チカラをかけずに、カリカリカリっと地表をスライドさせるようにやさしくやりましょう。
「さぁーサッチとるぞー!」って始めると、最初の数回はほとんど出てこないですよね。何回か掻いていくとモリモリ沸き出るのはそのためです。生きた芝に絡みついた芝の死骸が、解れて剥がれてきているわけです。
専用道具は、それを剥がしやすいように設計されています。
もちろん、一般的に売っている汎用レーキでもOK!
ただし、芝生専用品でない場合は、それなりに「地面の中を掻く」ということが必要になります。ステンレスレーキの場合は、人間がチカラをかけ、レーキのスプリング機能(ステンレスの弾力)で自動調整する・・・という形になります。だから少々、チカラを入れる必要がでてきます。
汎用レーキを使う人は、真夏は芝の根を傷めないように少し注意してくださいね。
芝にチカラをかけすぎないサッチ取り方法「座ってみてはいかが?」
足腰を使わないので作業がラクです。そして芝に力が入りすぎなくてちょうどイイ塩梅です。座ってサッチとり・・・オススメです。芝生に座ってのんびーりカリカリサッチ取り。なんとも優雅でイイと思いますよ。
広いお庭の場合は、一度にやろうとせず、日にちをかけてコツコツ・・・なにしろ、この季節の芝は座りごこちも手触りも最高に良いです。芝生と戯れながらサッチとり。
↓ 子供が借りてきた本なんですけど、これ好きです(^^)
サッチ取りはどのくらいの頻度でやる?
その庭の芝の状態によって異なると思います。 我が家の場合は、陽当たりが悪い庭なので、病害虫予防の観点で基本的に年に3回、積極的にやっています。
逆に、陽当たり良好で芝が強く育つ庭でしたら、趣味の園芸「芝生」に書かれているとおり、1年か2年に1回でも充分だったりします。
趣味の園芸「芝生」は、あまり神経質にならない芝生づくりのお手本
必要最低限の手入れで美しい芝生づくりができる究極のレシピ本。
芝生愛好家なら、入門者の方、熟達者の方、いずれも一度は読んでいたきたい本です。
初心者・入門者の方にとっては、さまざまな「迷い」がだいぶ軽減されて気持ちがラクになります。
熟達者の方が読むと違う気づきがたくさんあります。
「えっ?なんでヤラなくてイイの?」本題の「サッチ取り」もそうですし、「病害の殺菌」や「雑草の除草」に極力、薬剤を使わない表現など、随所に意外な割り切りがでてきます。
これらはいずれも、とても判断が難しく真に説明しきるには膨大な情報提供が必要となる点が共通しています。よくわからずにやる」とリスクが高い。
基本に立ち返って、芝の環境を整える「人間の手作業による環境改善努力」と「芝のチカラ」に委ねたほうがマシな結果となる(根治)・・・という、浅野先生・加藤先生のメッセージではないカナ?と僕は思うわけです。
この本、そうやって読むと、その奥深さがわかります。熟達者の読み方です(^^)
話をサッチ取りにもどしまして・・・要は、芝が健康に育ってくれてさえすればイイんです。サッチ取りはそのために「手段として」やるものですから。
「最低限やるべきこと」さえわかってしまえば、それ以上ヤルか否かは、オーナーの方針次第。この本はその境目の理解にとても役立ちます。
劣悪環境の我が家でやっている年間のサッチ取りの実例(実施時期別のコツ)
住宅密集地で「日照が悪く、粘土質土壌で水はけが悪い」。南側の家の影にスッポリ入ってしまう我が家では、芝生の育成は1シーズンワンチャンス。大きな失敗をすると復活できる余裕はありません。シーズンの芝生の完成度はそこでゲームオーバーです。
だから、計画的に極力トラブルを回避しながら攻略していくしかありません。
特に「病害」は致命的。一般的な家庭の芝生にとっては一時的な衰退でも、我が家のような条件が悪い庭で深刻な病害を出してしまうと、そのシーズンの芝の仕上がりは諦めるしかないのです。悲しいことに・・・
だから、いつだって真剣勝負!一般的なご家庭の芝生よりもハードルが高い分、人間の感度が研ぎ澄まされます(^^;) イイコトなのか、ワルイことなのかw
この家に引っ越してきたときのエピソードは、こちらにまとめてくれています。
そんな慎重な我が家のサッチングは、基本的に年3回の機会があります。それぞれの時期の目的とやり方(強く?やさしく?)を全部ご紹介します。
芝が目覚める直前の2月 思い切りヤリます
枯芝の徹底除去と共に、サッチもこの時は根こそぎ取り除きます。休眠中の芝の命は地中にあるので、この時ばかりは容赦はいりません。
でも、サッチを取り除いた後は、芝が丸裸になっちゃうんで、その日のうちにしっかりと目土入れをして芝を保護します。
梅雨入り前の6月初旬 病害虫対策が目的です 根の修復力が強い時期です
梅雨は、病害や害虫が増えやすい季節。病巣になりやすいサッチを減らすために、梅雨入り前のサッチ取りが効果的。良好に根付いてさえいれば、この季節は強めのサッチ取りをやっても大丈夫。傷ついた根は、梅雨の長雨の間に水耕栽培のように修復していきます。
今年は、我が家の芝は、水はけを改善した効果か芝の状態が良かったんでやりませんでした。
梅雨明け後の7月から8月初めのサッチ取りは美しさのための老朽組織の間引き
ピーク芝を美しくするためのサッチ取り。梅雨明け後なるべく速やかに実施します。
この時は、サッチを減らすと共に老朽葉の除去もかねてやります。 サッチの山には黒っぽい老朽組織も含まれています。(老朽組織:生きてるけどもうすぐ役割を終える古い組織)
真夏は芝が全力で生理活動をしている季節。根も全力で活動しています。できる限り根を傷つけないように、やさしく効率よく「カリカリ」とサッチを根本から剥がすのが無難です。かく云う我が家では2019年の夏、ガンガンサッチングマシーンかけましたけど、その年は別に問題なくピーク芝ができあがりました。天候次第です。
芝生は「若い葉」と「老いた葉」が混在してターフを形成しています。この季節、一度、老朽葉を取り除くことで芝生全体の緑が一斉に鮮やかに揃います。
サッチ取り後は、芝が美しく回復するまで3週間から4週間くらいかかりますので、ピークから逆算して実施します。出遅れた場合は「本当にピーク前にやる必要があるのか?」よく考えて、とっておきのピーク芝の写真・動画を撮影してからサッチ取りやる・・・というのも手です。
天候次第では、十分に復活しないまま、ピークアウトを迎えることもありますから。
・・・ということで、通常の年なら、この3回でおしまい。
【例外】2020年秋口のサッチ取り・・・高温多雨の異常気象
去年、2020年みたいに、9月が外気温が下がらないうちに長雨に突入すると、病原菌の増殖環境が整ってしまうので、枯芝大好きリゾクトニアによって、翌年春ハゲ症になるのが嫌なので、去年はサッチ取りやりました。普通の年だったら秋はやりません。
動画で詳しく解説しています。
サッチ取りの判断で大切なのは「目的」。何のためにヤルのか?です
サッチ取りすることが大切なのではなく、「何のために」サッチ取りする必要があるのかっていうこと。それは、その人の庭の環境・芝の状態、芝の育て方によって、それぞれ違うものだと思います。
目的も必要もないのに、「みんなが言ってるからサッチ取りをしなきゃいけない!」って考える必要はないと思います。
その点は、趣味の園芸「芝生」に習うのが一番イイと思います。
なにしろ、1年~2年に1回やれば十分なワケですから(^^)
あとは本人のこだわりと事情による・・・ということ。
サッチの勉強をしたきっかけは、ロボット芝刈り機の導入検討
僕がサッチについて深く勉強したきっかけは、2019年末ごろ、ロボット芝刈り機の購入を真剣に検討していたからです。20万円もする高価な機械。失敗だけはしたくない。
余談ですが、僕は2020年2月に「オートモア105」を買い、4月に最新式305が日本上陸したことを知り、5月に未使用で売却し、7月に最新式オートモア305を購入しました(^^;)
家庭用ロボット芝刈り機 オートモア105 今年、大幅な価格改定で安くなりました
こっちが、我が家が使っているオートモア305 現在、日本で売られているハスクバーナ家庭用ロボット芝刈り機の中では最新式です。
その時のコバナシが含まれる動画w
ロボット芝刈り機で気になった点 それは「刈りカス」は回収しなくて大丈夫?ってこと
調べまくって辿り着いた結論は「刈りカスは、ほとんどサッチとは関係ない」ということ。刈りカスは、芝の上から溜まるゴミ。乾燥重量はわずか17%くらいしかない微細なゴミです。
毎日芝刈りするロボット芝刈り機では、輪切りになったミリ単位の微細な刈りカスなんで分解されやすく、ほとんど堆積しないで土に還元されることがわかりました。
(注) 長い刈りカスはそれなりに分解に時間がかりますけど
一方、サッチは地中や根本から溜まる芝の死骸。水や養分を運ぶ丈夫な維管束などを形成するリグニンという物質をたくさん含んでいて、これが分解されにくいそうです。
なるほど、葉っぱは分解されやすくて、根と茎は分解されにくい理由はここにあり。
サッチの正体(「刈りカスではない!」)ということがはっきり書かれている書籍と論文
一番、語気強く示されているのは、マイカ・ウッズ博士の「芝草科学とグリーンキーピング」です。1960年代~1970年代の研究・学術論文を具体的に挙げて「刈りカスはサッチにはならない」とはっきり示されています。
その情報の大元をご覧になりたいマニアな方は、ズバリこの本です。
「サッチの定義」の大元となる学術書、ジェームス・ベアード博士の「Beard's Turfgrass Encyclopedia For Golf Courses,Grounds,Lawns,Sports Fields」
高麗芝の刈りカスを芝の上に放置し続けても、サッチはわずか3%しか増えないという実験結果をまとめた学術論文
https://acsess.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.2135/cropsci1988.0011183X002800020030x
日本の芝草博士もちゃんとお示しです。池村嘉晃博士の「Dr.イケムラの”日本一”受けたい授業~ワンランク上のコース管理へ~」には、葉と茎・根・匍匐茎のリグニン含有量の違いも述べられています。
専門書では、芝草研究者の入門書籍(ものすごーく難しい専門書)A・J・タージョン著の「Turfgrass Management」に、サッチの生態についてはまだ学術的に解明されていないこともあるということ、刈りカスはサッチに影響しないのがアメリカでの通説であることについて、触れています。
学会のセミナーや正会員向け資料は情報取得に役立つ!
本を読んで 「サッチは刈りカスではない」ということを知ったものの、なぜ?葉は分解されやすく、茎・根・匍匐茎は分解されにくいの?という疑問については、なかなか理解できませんでした。
こんな時、役立つのは、やはり知見・学術の最高峰、各種学会だと思います。
日本芝草学会
僕は病害が苦手で、「対処のしかた」よりも、「なぜ、そうなるのか?」やプロの世界ではどんな風に病害を判定し、どのように対処しているのか、「本当のこと」が知りたくて入会しました。年2回の年会のほか、臨時開催のセミナーや部会活動の報告があるので、貴重な情報源です。
日本植物生理学会
芝のことを学んでいくうちに、「これは、植物の生理メカニズムのことを本格的に学ばないとわからないな」と思って入会しました。
きっかけは、上述の「ターフグラスマネジメント」。専門書はあまりにも難しく、植物の専門知識・用語がわからないと読み解くことが困難だったからです。日本植物生理学会の国内一般会員になると、過去の膨大な資料などにアクセスが可能です。
過去の成果物である書籍と生きた最新の知見である学会の最新事情を掛け合わせることで、「現在の事実」を読み解くことができます。
学会は学術研鑽の場なので、軽い気持ちで入会することは避けるべきですが、「芝生・ガーデニングを生涯楽しみたい」と真剣に学びを求めている方には学会への入会・参加をオススメです。
一歩踏み込むと、一般的に流れている情報はほんの入り口。概念化した情報にすぎません。核心はまだまだ知らないことだらけ。謙虚に本当のことを追究して学びを深めることができます。
芝生の手入れに関する「真実」の情報にたどり着く方法
情報の根拠にたどり着き、自分自身でその情報の確かさを確認する方法について、以前、ブログにまとめています。興味がある方はそちらもご覧ください。
ネットの情報は玉石混交。役立つ情報がたくさんある反面、間違った情報や根拠のないウワサもたくさん流れています。情報を利用する側が、確かな目で判定しながら情報を取捨選択して、上手に活用していく必要があります。
意外と古風な方法ですけど、書籍・図書館・学会という、アナログな世界が、役に立ちます。
いろいろ知識をつけて、新しい気づきを得ていくうちに、入門書中の入門書「趣味の園芸 芝生」に書かれていることの奥深さ、バッサリ切り捨てていることの本当の意味にを理解し、学術知見の結晶、仙人の域の「究極の教え方」がコレだ!!と鳥肌が立つ思いなのです。
そして、趣味の園芸 芝生で、バッサリ切り捨てていることを、丁寧に丁寧に、一般の人にわかりやすくキャッチアップしているのが、武井和久先生の書籍、「一年中美しい家庭で楽しむ芝生づくり12か月」なのです。
武井先生の本は、残念ながら初版5000部が完売。現在は流通在庫のみとなっています。定価で手に入れるのが難しくなっているのが残念。
芝生の手入れの基本教科書として、「趣味の園芸 芝生」と「一年中美しい 家庭で楽しむ芝生づくり12か月」の組み合わせが、最強だなーと僕は思います。
さて、話を本題に戻しまして・・・
サッチは何のためにある?~芝が過酷な環境でも生きていくためさ~
ご覧ください。芝刈りをまったくしない野生化した芝でも、このように立派なサッチ層が形成されます。これがサッチの正体です。
この芝を観察すると面白いことに気づきます。
コンクリートの割れ目のわずかな土しかない、この場所では、このサッチ層が水を含み、真夏の酷暑でも、生きた芝に潤いを与えています。
肥料も与えられないこの場所で、芝が元気に生きていくための必須元素は、たぶんこのサッチが分解されることによって、再び芝の身体に還元されているんじゃないか?と思います。
この芝にとって、サッチは生きて繁栄していくために必要な足場なんです。
人間が管理する芝生の場合は、サッチに頼らなくてもイイ
適切に管理された「芝生」は、土壌環境も整えてあるし、必要な水と肥料は人間が与えるので、このサッチの機能が邪魔になってしまう。
だから「人間都合でサッチを取り除く」サッチの役割は人間が手当て・・・というのが、現在のところの東京40まいるの考察・オリジナルの持論でございます。
ちなみに「刈りカスがサッチの原因だ」って書いてある古い書物もあります
ま、ただしくは、サッチの一部ではあるけど、主体ではない。ってことでしょう。
サッチか、サッチでないか???ということは、実はどうでもいい。
芝生の土の表面の健康が保たれるのか、否か?それが重要です。
知れば知るほど、知らない世界が広がる植物・芝。
この面白さ、どこまで続くんでしょ?
動画まだご覧になっていない方は、ぜひ、ご覧ください。
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