芝生の雑学 東京40まいる

芝生の手入れに役立つ雑学専門ブログ

芝生の病害対策に有効な殺菌剤の組み合わせ(薬剤ローテーション)ジョウロ?噴霧器?

 月刊『家庭の芝生』4月号では「殺菌剤は芝を治療する薬ではありませんよ」という話。5月号では「薬剤耐性菌ができるメカニズム」をご説明して、複数の薬剤を使ったローテーションの必要性をお話しました。

今回のブログは、6月号でお話した「薬剤ローテーションの実例と選択の理由」について実例に基づき、具体的にご説明します。

芝生管理に殺菌剤が必須となる理由についてはこのブログをご覧ください。

tokyo40mile.hatenablog.com

我が家で使用した芝生用殺菌剤の組み合わせ

いずれも、作用機作(菌への攻撃のポイント・仕方)が異なる薬剤を組みあわせ、それぞれの薬剤の性質・危険度に応じたフォーメーションを組むことで、病害の抑止と耐性菌の発生の可能性を低減させる努力をしています。

第1期 2018年4月~2020年4月

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第2期 2020年4月~現在

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第1期の組み合わせ(このメンバー構成の理由)

主戦力はラリー水和剤

菌の細胞膜をつくるのに必要な、エルゴステロールという物質を菌が生成するのを阻害することで、正常な細胞膜が形成できなくなって、結果として菌の細胞の奇形によって増殖が停止したり、死んだりして殺菌効果を発揮します。

 

 浸透性で、芝の体内に入って長く効果を持続させるので、ひとたび浸透してしまえば雨に流される心配も少なく、梅雨時に頼もしい効果を発揮してくれます。

浸透型の薬なので、展着剤は機能性展着剤との組み合わせが良いと思います。

葉や茎の表面から浸透していくので、ジョウロ散布ではなく、噴霧器で葉の表裏丁寧に散布することがオススメです。 

 手動蓄圧式噴霧器については、アイリスオーヤマ製が丈夫で効率がよくアフターパーツも豊富でオススメだったのですが、10年くらい前に製造終了となっています。

とても残念。我が家では現在でも、アイリスオーヤマ製を愛用しています。

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愛用しているアイリスオーヤマ製手動噴霧器(絶版)~月刊『家庭の芝生』6月号より~

「ジョウロ」と「噴霧器」の選択は薬剤の機能経路による

ちょっと脱線しますが、薬剤散布に使う道具は「ジョウロ」か?「噴霧器か?」という話については、「地面に撒く薬」がジョウロ。「葉や茎から浸透する薬」が噴霧器・・・という大別です。

家庭の芝生管理の場合、どちらを使っても大差はないですのであまり気にしなくてもいいと思いますけど、「理にかなったBEST」を尽くしたいなら、薬剤の性質に合った最適な方法(ジョウロor噴霧器」を選択するのもコダワリの一つです(^^)

現在、我が家で使用している薬剤で、ジョウロに適しているものをご紹介します。

第2期(現在)に使用しているユニゾン水和剤は地面に撒くタイプ。 コケなどの藻類の発生を抑制する効果もあるので、梅雨時にピッタリ。

 日本唯一の漢方農薬、アルムグリーン(根の伸長促進)も、地中に浸透させて根に届かせる目的の散布なので、ジョウロが適しています。 

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アルムグリーンはジョウロ散布が最適

 つまり、地面にしっかり落とし込んで地中浸透させる目的のものは、迷わず「ジョウロ」葉や茎の表面の付着や、芝の表面からの浸透を狙いとする薬剤は「噴霧器」で丁寧に付着させたほうが、機能性の理にかなっているというワケです。

噴霧器がナイ人は「ジョウロ」散布でも、実質的な大差はないと思います。

こだわるならば・・・ という話ですよ(^^)

「ラリー水和剤」に話を戻します 

ラリー水和剤は、予防にも治療にも使えますけど、特に治療での効果が実感できました。

我が家で実績がある対象病害は、カーブラリア葉枯れ病と、サビ病です

昨年は、初めて植えたセントオーガスチングラスにサビ病が発生しましたが、たった1度のラリー水和剤散布で病害を抑え、一気に完治した実績もあります。

この動画の中で、その病害シーンが登場します。


www.youtube.com

さて、このラリー水和剤。年間の使用制限回数は8回以内。

耐性菌のリスクは「中」程度なので、適切に他の作用機作の殺菌剤とローテーションしている限りは、あまり耐性菌に神経質になる必要はありません。

しかし、薬剤が比較的安価な上、家庭の芝生が遭遇する通常の病害に効果的に適合するため、ついつい使用頻度(出番)が多くなり、結果として「使いすぎる」傾向があります。

我が家では2年間、有事の際に活用して使いきりました。

一旦、買い替えはせずに薬剤耐性を考慮した休止期間を設けるため、現在はローテーションから外しています。

予防殺菌はオーソサイド

家庭の芝生用殺菌剤として、もっとも古くからあるポピュラーな殺菌剤です。

いわゆる「殺菌消毒」の一般的なイメージに近く、葉や茎の表面に付着した菌の細胞内の酵素の活動を阻害して菌を殺します。芝の体内に入ってしまった菌ではなく、これから襲い掛かる可能性がある病原菌の数を表面の段階で減らすことが主な効果の「予防殺菌剤」です。芝生以外にも、主にさまざまな果樹など農作物に広く使われています。 

 ホームセンターなどでは、芝生用として「使い切りサイズ」(↓参照)も売っています。

「とりあえず予防殺菌してみる」という方には、お気軽に試せる希少な殺菌剤だと思います。ただし、コストパフォーマンスは圧倒的に通常サイズ(大)のほうが良いので、継続して芝生を管理する方には、初めから大きいサイズ(↑参照)を調達することをオススメします。 

 オーソサイドは、菌の細胞の特定部位ではなく、さまざまな活動の酵素に作用する薬なので、耐性菌ができるリスクが低く比較的安心して使えます。(だからホームセンターで普通に売っているのかもしれません。)

ただし、進行してしまった病害の勢力を抑え込む力は弱く、発生後の病害にはあまり効果が期待できません。

我が家では、ラリー水和剤の使用を温存するための前座(病害が発生する前に、菌の数を減らす)として活用していました。

表層を覆うことで殺菌効果を発揮するタイプですので、散布はもちろん、ジョウロよりも噴霧器がオススメです。↓これ、いつかは欲しいと思ってます(^^)物欲w

 オーソサイドは、芝内部への浸透性ではなく接触によって殺菌効果を発揮する薬ですので、芝刈りを進めて新しい茎葉がでてくるに従って、根部から次第に薬剤効果がなくなります。

病害発生が気になる同一期間内に、間隔をあけて複数回散布をしたほうが、良いと思います。特に、根本(茎・葉の付け根)までしっかり噴霧するのがポイントです。

カシマン液剤は、ラリー水和剤との薬剤耐性を考慮して選択

細胞膜機能の破壊と細胞膜をつくるのに必要な脂質の合成を阻害する薬です。平成3年に農薬登録され、ゴルフ場などでも使われているそうです。 

 我が家の庭は、約28年間、前のオーナーが管理していた芝生。

メジャーどころの「オーソサイド」「ラリー」は、いずれも近所の園芸店・ホームセンターに常備陳列されているため、過去においても長期利用していた可能性があります。

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カシマン液剤は、あまり店舗には陳列されていない薬で、かつ、作用機作は他作用点接点活性化合物の中でも、オーソサイドとも異なるビスグアニジングループの薬剤なのでローテーションメンバー(補助的使用)に加えました。

液剤なので希釈しやすく、水和剤とちがって薬剤が偏ることもないので、とても扱いやすいです。

オールラウンダーで強力に作用するトップグラスの導入

ラリー水和剤の残りが少なくなる中、次期「治療系」殺菌剤として選んだのが、トップグラスです。この薬は、病害菌のDNA合成の有糸分裂を阻害すること、つまり、細胞分裂の邪魔をすることで菌を増殖させず、衰退させる殺菌剤です。

 この薬の特徴は、なんと言っても、適用病害の幅広さ。

家庭の芝生で起こる一般的な病害においては、サビ病以外は、ほぼすべてカバーしてるんじゃないか?・・・っていうくらい適用が広い。

何かよくわからない病変が起こったら、この殺菌剤を散布すると、効果が出る可能性が高いのです。

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薬剤は粉末ではなく、顆粒状なのでサラサラで水によく溶けます。

我が家では、春ハゲ病対策として、枯芝が多くなる「秋」(翌年の春のための殺菌)と、ブラウンパッチや春はげ病が発症しやすい「春」(枯れ芝に寄生したリゾクトニアの覚醒抑制)に、スポット(1回あたり7日間隔2回)で使用しています。

だがしかし!トップグラスの弱点は、耐性菌ができやすいこと。

長期連用は絶対に避けねばいけません。年間スケジュールの中で、メリハリをつけて局所集中的に使う薬です。

 

ここまでが、我が家の第一期の薬剤ローテーションメンバーの説明です。一旦、ここでおしまい。

殺菌剤は、その性質をよく理解して効果的に使いましょう!

読者さんの反響が大きかったら、いずれ、第二期(現在使用しているローテーションメンバー)のご説明もさせていただくかもしれません。

 

資料集 このブログの内容がもっとわかる参考資料

月刊『家庭の芝生』4月号

殺菌剤がいったい何をやってくれるのか?芝の健康とのバランスと病害発生の仕組みについて解説しています。


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月刊『家庭の芝生』5月号

同じ薬を使い続けると、薬剤耐性菌が増えてしまうメカニズムについて解説しています。


www.youtube.com

 

月刊『家庭の芝生』6月号

人間が管理している美しい芝生には病害がつきもの。なぜか?について説明しています。


www.youtube.com

 

殺菌剤の作用機作一覧

薬剤ローテーションを考慮するときに、必ず知っていなければいけない、薬剤の作用(菌を攻撃するポイント・仕組み)別にまとまっているリストです。非常に役立ちますのでオススメです。

www.environmentalscience.bayer.jp

 

次のブログか、動画でお会いしましょう。

では、また!